こういったグラフィティーアートは「視覚的に何かを訴えかける」力があるとして声なき人たちにとって大切な自己表現の手段として活用されてきました。
またHIPHOP文化が世界に与えた影響として一番重要な要素が、MC(ラッパー)達による
「ストーリングテリング」=(歌詞を通して)物事を伝えるという力
を駆使したラップソングでした。
この背景があるから、フリースタイルダンジョンなどのMCバトルでもよく「中身のない韻だけじゃなくて、ちゃんと会話をしろ」と良く聞くワケですね
そして、このラップソングの役割でもあるストーリーテリングで一番世界に影響を与えた曲が
1989年リリースの“Fight the Power”(by. Public Enemy)と言われており、
NYのロングアイランド地域出身の彼らは不当な扱いなど、貧困層や黒人が抱える問題を“上のやつら”が無視することなどに抵抗するためにこの歌を歌いました。
“Fight the Power”ーby Public Enemy
(一部抜粋)
Got to give us what we want. Got to give us what we need. Our freedom of speech is freedom or death. We got to fight the powers that be. Fight the power. Fight the power.
We've.got to fight the powers that be.
本当に欲しいもの、必要なものを勝ち取るんだ。おれたち(黒人)にとって言論の自由は、生きるか死ぬかの問題だ。権力と闘おう、権力と闘おう、権力を持つものと闘わなければならない
1991年に、ヨーロッパのセルビアという地域で政府が人権に関する会議を行う際に、政府がラジオ局に「この会議に反対する全てのニュースを流すことを禁止」させたことがありました。
それに対抗してラジオ局は音楽はアート表現でありニュースではないという抜け道からラジオ局はこの曲を繰り返し流し続けました。
そして最終的にこの会議で市民は”言論の自由”を勝ち取ることに成功した。
(ざっくりいうと、人種や社会的地位に関係なく、言いたいことを言っていいという今では当たり前の権利)
けど、別にHIPHOPじゃなくても大丈夫だったんじゃね?
という声もあるかもしれない
(厳密にいうとラップはHIPHOPというジャンルの中の歌い方の一つなのですが利便性のためここからはー括してラップと言います)
しかしそれもありえる状況の中、ラップがなぜこういうことをなし得たのかというと
ラップが物事を伝えるのに一番適した歌い方だからである。
2014年にMusixmatchという音楽サイトが発表した“The Largest Vocabularies in music”というどの音楽ジャンルが一番語彙力があるか調べるために25個の音楽ジャンルを分析した結果から、
1位のラップは1曲平均で478個の異なる単語を使うのに対し、
2位のポップミュージックは約302個
そして、1曲あたりに使われる純粋な単語数で見た時(ダブってもいい)
1位はラップで1963個に対し、
2位のヘビーメタルは1533個
だということが分かった。つまり同じ分数の違うジャンルの曲だとしても、ラップという歌い方は物事を伝える時に一番細かく、より多くの情報が伝えられるということだ。
そう、
ラップはコミュニケーションという面でめちゃくちゃ効率が良いのだ
だから、情報交換、人々の生い立ちや環境などを伝える手段としても色々な目的で使われた。
もはやSNSとなんら変わらないほどの汎用性がラップにはある。
LINE、Skype、Twitter、ラップ(サイファー)
ね、そう言われるとこの並びはあまり違和感感じませんよね
つまりHipHop文化に触れ、ラップを知った人間がずっとラップが好きなのは
多くの人間がSNS離れをできない理由と意外と近い可能性がある、
・サイファーの場でラップで会話をする=LINEでやりとりする
・言いたいことをラップソングとして伝える=ツイートする、ブログを書く
・ラップのMV=社会に訴えかけるような映画・番組
このように関連付ける事ができる
この3つの、誰でも日常的に体験・使用しているたくさんのモノはすべて「ラップ」でまかなうことが出来る。(そう、何かをラップするように)
HipHop、ラップというのには単純な音楽としての機能だけじゃなく、こういった面も持ち合わせているというのが他のジャンルにはなかなか見受けられない要素の一つだろう。
そして今、TikTokやインスタを始めとしたSNSなどの中毒性のあるものが世界を支配しているのと同じように
ラップを知らない人が、ある日ラップ曲をなんとなく聴き始めて、
そこからすこし興味を持って、その可能性の広さ、多様性、自由さに触れてしまった人がどんどんラップにハマる(悪く言えば依存)してしまう理由の少なくとも1つはそこにある。
(あくまで持論の1つ、もちろん他の理由もたくさんあります)
アメリカのニューヨークからHIPHOP文化が誕生し、どのようにそれぞれの国に広がったか
というのは細かすぎてここでは伝えきれませんが、共通して今回のテーマの
HipHopはどのように世界に浸透したか?という問いの答えのカギは
HipHop文化の持つ
自分の体験や物事をダンスやラップ、グラフィティといった、
「アートの持つ感覚的で世界共通のわかりやすさ✖︎圧倒的な情報交換能力」
にあると思うんだ。
だから、どんだけ時代が変わっても本来のストーリーテリングという特性を生かした、環境や自分を表現するような曲が存在するし、
SNSによって評価されたり、他人と自分を比べやすくなって誰でも不安になりやすくなった時代において、自己表現をしやすいラップという音楽は世界中で現代の人々の心の支えになっている。
それは「自分の苦しみや感情を細かく伝えるのに特化している」という理由プラス、逆に聞き手は「細かく表現されたラッパーたちの1人間としての感情」を本当に細かく理解できることにあって、それによって共感性がめちゃくちゃ高まるところに尽きるだろう。
それがラップの魅力に惹かれる人が多い理由だろう。
また歌は上手いに越したことはないが、たとえ上手くなくてもラップというのは
「高い歌唱力で歌う」ことが本来求められていないジャンルの歌なので、ラップを始める敷居も高いわけではなく、今ではオートチューンや無料のビートなども多いし、SNSで自分の作品を世界にシェアすることも簡単なので、どんどんラッパー人口が世界中で増えているのではないだろうか。そうやって、これからも世界にHipHop文化は世界に広がってゆくだろう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この記事は2018年にTEDにて登壇した Ian Lawrence氏が「Why Hip Hop is World Culture」という内容で語ったのを参考に、持論をまぜたものになっております。
References: